介護現場の人手不足は深刻だ。長岡でも同様で、その解決と新しい介護産業の創出に向け、平成30(2018)年7月に「長岡介護イノベーション・ハブ」を立ち上げた。現在、4つのワーキンググループ(以下WG)が活動している。各WGの課題は、
◎災害対応
◎持ち物確認
◎介護機器・ロボット調査
◎介護記録デジタル化
の4つである。いずれも、ICT・IoT・ロボットなどの新技術によって、介護者の身体的負担の軽減や、作業時間の短縮化、災害での避難対応などに取り組んでいる。
3月15日(火)の定例会(写真上)では、これまでの活動で開発した試作品の体験会を行った。参加者は、介護施設やものづくり・IT企業、金融機関、長岡技術科学大学・長岡工業高等専門学校の教員など約30名。新しい試作品を実際に体験しながら、実用化に向け活発な意見がとびかった。
現在進めている取り組みを以下で紹介しよう。
■災害対応WG:「LINEを使った情報伝達システム」(新規)
介護施設では、緊急時、電話やメールで職員を招集している。しかし、管理者(責任者)が出勤できる職員を効率的に見つけられないと、いざという緊急時に迅速に動くことだできない。この課題を解決するため、日頃から使い慣れていて、費用負担の少ないLINEアプリを使ったシステムを(株)KCS(長岡市青葉台)が開発した。
このシステムは、介護現場の生の意見を取り入れて開発された。その結果、機能が必要なものに絞り込まれ、使い勝手が良い。その上、他の仕事向けアプリ(LINE WORKSなど)よりも安価で提供する予定だ。
実際に体験した介護職員たちの反応は、「素早く、簡単に使えて良い」「余計な機能がなく、使用方法が分かりやすい」など好評だという。
今後、実際の導入を視野に入れ、さらなる開発を進めていく。
■持ち物確認WG:「ICタグを用いた持ち物確認システム」(継続)
ショートステイなど短期利用者の入退所時の「持ち物チェック」に時間がかかりすぎる──この課題解決のため、ICタグを荷物に付け、リーダーで読み取り、管理・確認するシステムを開発したのは新潟通信機(株)(新潟市中央区)だ。
・まず、入所の際に持ち込む日用品(衣類や歯ブラシなど)にICタグを付ける。
・専用の箱(シールドボックス)に入れるとICリーダーがタグの情報を読み込み、システムに登録する。
・退所の際、同じ手順で持ち物タグを読み込めば、「持ち込んだ数と合っているか」「本人のものかどうか」が瞬時に分かる。
これまで荷物確認に1人当たり15分ほどもかかっていたが、数秒でできるようになる。早くて正確だ。読み取り機器は移動可能なので使い方の巾もありそうだ。業務の効率化が図れるこのシステムの可能性に大いに期待したい。
■介護機器・ロボット調査WG:「狭いスペースでも使える脱着式リフト」(継続)
昨年度、(株)ヤマグチ機械(長岡市南陽)とこのハブが協働で新潟県の補助金を活用し、狭いスペースでも脱着できるリフトを開発した。容易に利用者をベッドに移動させることができる。
実際に操作体験した施設関係者からは、「介護の時間短縮や職員の負担軽減につながる」との高評価を得た。しかし、リフトを支えるベース(土台)をベッドの下に入れるとベッドの高さが高くなる。必然、落下したときのリスクが大きくなるという課題も残った。
今回のハブ定例会では、さまざまな分野の参加者から体験してもらい、課題解決に向けた意見交換を行った。今後もこうした実証実験を行いながら、改良を重ね、実用化していく。
長岡介護イノベーション・ハブを立ち上げて3年。開発した試作品の質も向上し、実際の導入へとつながる道が見えてきた。
現在、国は「入居者3人に1人」としている介護施設の人員配置の基準を緩和し、将来的に「4人に1人」とする検討を始めた。介護の質の低下や職員の負担増が懸念される中、業務の効率化、ロボット等の活用はこれまで以上に求められてくるだろう。
今後も現場の声を真摯に取り上げるこのハブを通して、こうした社会情勢にも対応し、地域の介護力の強化に取り組んでいく。
関 連 記 事: イノベーションエコシステム イノベーション人材を育てよう Nagaoka オープンイノベーション 未来を創るバイオコミュニティ
タイトル画像: 狭いスペースでも使えるベッド脱着式リフト──ベッドから車椅子などに移動してもらうときに威力を発揮しそう──の試作品体験会(今年度の定例会にて)