アオーレ長岡が10周年を迎え、4月9日(土)、10日(日)には 記念イベントが開催された。感染防止対策を徹底したなかではあるが、家族連れで買い物 や飲食を楽しむ姿が終日見られ、アオーレらしい賑わいと居心地の良い雰囲気が戻った10周年イベントとなった。
そして、10周年を祝うにふさわしく、アオーレ長岡の設計者・隈 研吾さんの講演会が開催された。
会場のアリーナには、1時間前から多くの市民が集まり、世界的な建築家に対する関心の高さがうかがえた。第2部の対談では、アオーレ長岡の生み出したものやこれからのビジョン等について私からも話をさせてもらったところだ。
この機会に、アオーレ長岡の10年の成果と、隈さんとの対談を通して感じたことなどを紹介したいと思う。
■ 建築家 隈 研吾とアオーレ長岡
昨年、東京国立近代美術館で開催された『隈研吾 展』が大きな話題となった。
同館としては初めての建築をテーマにした企画展で、企画の中心となった保坂健二朗さん(
当時の同美術館主任研究員、現滋賀県立美術館長) は、アオーレ長岡を見て感動したことが隈展開催のきっかけになったと語っている。
企画展のテーマは「新しい公共性をつくるための🐱の5原則」。建物から外に出て街を徘徊し、自由な生き方をする猫(半ノラネコ)の視点で、建築や公共空間を見直そうという提案で、これは隈建築の総括であり未来でもある。
🐱の5原則:
1 穴 HOLE
2 粒子 PARTICLES
3 やわらかい SOFTNESS
4 斜め OBLIQUE
5 時間 TIME
この「5原則」がアオーレ長岡の特徴となっているのが興味深い。
例えば、「1 穴」の図録解説では「中庭もまたひとつの穴である」として、アオーレのナカドマの写真が掲載されている。講演では、「2 粒子」「3 やわらかい」などについて、アオーレの小国和紙の壁、ナカドマの凹凸のある床、窓口カウンターのソフトな仕上げ、厚生会館の部材の再利用、などが語られた。
講演の中で、「近代建築の合理性・効率性重視が、ヒトをハコの中に閉じ込め(ハコの奴隷)、ヒトを不幸にしている(ハコの不幸)」、そして「ヒトをハコから解放するため、公共建築物や公共空間の中に多様なモノを持ち込むことによって、モノ・コト・場所をひとつにつなぐ。私は、公共空間をモノの集積としてデザインしてきた」と隈さんは言う。
私はこの話をうかがって、「ハコからの解放」とともに、「権威からの解放」も隈さんのねらいにあるのでは、と感じた。権威を誇示する自治体の公共建築の代表は東京都庁舎だろうか? 新潟県庁はどうかな?
それはさておき、アオーレ長岡は低層で街並みに溶け込み、3方向から自由に出入り可能で、権威にほど遠い。議場はナカドマに接し、市民に一番近いところにある(議場は一番高いところにあるのが一般的)。このように敷居の低い市庁舎は、全国でもアオーレだけだろう。
■ 市民協働・市民交流の拠点として
アオーレ長岡は、屋根付き広場「ナカドマ」を中心に、アリーナ・市民交流スペース・市役所・議会が溶け合う新しいコンセプトの複合施設として平成24(2012)年、4月1日にオープンした。
オープンをきっかけに、さまざまな市民活動が活発に行われるようになった。
「アオーレで何かをやってみたい」「日ごろの成果を多くの人にみてもらいたい」というやる気に満ちた団体が増加。今や市民協働・市民交流の拠点として完全に定着した観がある。
市民活動団体の登録団体数
H24 |
H25 |
H26 |
H27 |
H28 |
H29 |
H30 |
R1 |
R2 |
R3 |
88 |
130 |
133 |
142 |
149 |
225 |
306 |
373 |
422 |
432 |
また、ナカドマやテラスを中心に、「高校生たちなどの勉強場所」「友人たちとの待ち合わせ」「ミーティングの場」「デートスポット」など、普段から気軽に立ち寄り、気軽にくつろげる憩いの場としても定着している。
各所に設置してあるのが、可動式の軽いテーブル・イスである。利用シーンに合わせて自由に動かすことができ、お好みの配置で快適に過ごすことができる。
この「可動式で軽い」という仕様が、隈さんが特にこだわったところだ。建築に付属する固定ベンチは「座ることを強いられる」、可動式の軽いイス・テーブルは「使う人の自由度があるので、座りたくなる空間になる」と隈さんは言う。感染禍により、密にならない環境や換気が求められる中で、改めて人が集まる場の工夫、特に場に持ち込む「モノ」の重要性を再認識させられる話だ。
■ 人材と情報が集まる場として
オープン以来、大きなイベントや興行、学会・シンポジウムなどが次々に開催され、来場者は延べ1,100万人を超えた。日常的には多くの市民の皆さんからご利用いただき、そして、全国からも多くの方から来場いただいたことに心から感謝したい。
隈さんは講演会の中で、「10年たった今、アオーレのコンセプトは国立競技場や世界の公共建築物のモデルになっている」と話してくれた。こうした施設コンセプトや活用実績が注目を浴び、全国から各自治体や議会、教育機関、民間企業など、毎年5,000人を超える視察者が訪れていることも誇らしく思う。
■次の10年に向けて
ふりかえれば、アオーレの10年は市民協働が定着する10年でもあった。そして、この間に興ってきた新しい動きが「イノベーション」だ。
市長就任の平成28(2016)年以降、「長岡版イノベーション」を政策の柱に据え、さまざまな取り組みを進めてきた。アオーレにも、首都圏企業の役員・社員、教育関係者、研究者、国の関係者など、イノベーションに関わる多彩な人々が訪れるようになった。アオーレが市の外へも開かれた場となり、多くの情報が集まり、人と人とがつながり交流する──ここから新しい価値を生みだす動きが出てきた。
先般のブログで紹介した内閣府地方創生推進事務局と東京大学連携機構不動産イノベーション研究センター(CREI)との協定より、長岡で「イノベーション地区」創設に向けた研究がスタートするのもその新しい動きの一つだ。
アオーレ長岡の次の10年は、多様で充実した市民活動(市民協働)に加え、新しい価値を生み出すイノベーションがテーマになると考えている。来年夏にオープンする「米百俵プレイス ミライエ長岡」と一体となって、中心市街地を日本初の「イノベーション地区※」として、進化させていきたい。
※イノベーション地区
大学・研究機関、インキュベーション施設、ベンチャー企業、事業創発・発展を促進する企業・団体等が効果的に連携・集積している地域で、物理的にコンパクトで交通の便がよく、ネット環境が整備され、住宅・オフィス・小売店・飲食店等が混在している地区
関 連 記 事: アオーレの新しい日常
タイトル画像: 【アオーレ10周年】4/9(土)、10(日) ナカドマの休憩スペース