4月1日、アオーレ長岡が10周年を迎えた。

オープン以来1,100万人の入場者を数え、全国の公共施設で最も視察が多いシティホール(市役所・市民ホール)となっている。アオーレ長岡を拠点に展開してきた市民協働──この積極的な推進と広がりが、予想以上の成果を挙げてきた。これぞ長岡の市民力であると思う。
市民協働の成果については改めてご報告するつもりだが、今回はその土台となる“まちづくりのテーマ”についてお話したい。

 

■これまでの流れ

まず、長岡のまちづくり(中心市街地の活性化)の、これまでの経緯を振り返っておこう。


① 昭和30年代から40年代、中心市街地に大型店舗が次々と開店。昭和57年には新幹線開業。大いに賑わいを見せた。上り坂の高度経済成長期であった。

② 地方都市では移動に便利な車への依存度が大きくなり、車社会となった。自家用車でゆける郊外型大型店の出店が相次ぎ、平成に入ると、中心市街地の大型・小売店が閉店に追い込まれていく。こうして中心市街地は衰退(中心市街地の空洞化)を余儀なくされた。これは全国共通の現象で、現在もその解決は見られていない。

③ そこで平成15年、長岡市は『長岡市中心市街地構造改革会議』を設置し、「まちなか型公共サービス」の導入によって、市民の「ハレ」の場 となる新しい長岡の「顔」づくりに取り組むこととした。

④ 『まちなか型公共サービスの展開』と、『市民協働によるま ちづくり』の一体的な推進を目指して、シティホールプラザ「アオーレ長岡」を整備。大手通中央地区における市街地再開発事業、ペデストリアンデッキをつくるなど、中心市街地における都市機能の更新と再集積に取り組み、市役所機能のまちなか移転が完了した。

⑤ 現在、アオーレ長岡を中心に、年間を通じてさまざまな集客イベントの開催や市民活動が幅広く展開されている。まちなかは「文化・情報・交流の場」として生まれ変わり、幅広い世代の市民に利用されるようになってきている。

こうした一連の流れを一言でいえば「商業機能から市民協働・情報交換の場への転換」ということになるだろう。今後は、この「市民協働と情報交換の場」が、いかに意義あるものを生み出していくか? それは何か?──というテーマを追求していく。活動の質をどんどん上げていこうと考えている。
人が交流してまちが賑わうことは嬉しいことだ。だが、今や人口減少の真っただ中。長岡の未来を切り開くために、いかにして価値あるものや新しいものを生み出していくか、それが本当のテーマ=米百俵の長岡にふさわしいビジョンになるはずだと思う。

こうした課題テ-マに大きなヒントを与えてくれる動きがあったので、ご報告したい。

 

■ 内閣府・東京大学CREIと研究連携協定を締結

 

3月30日(水) 長岡市は、日本初の「イノベーション地区」の創設を目指し、内閣府地方創生推進事務局東京大学連携機構不動産イノベーション研究センター(CREI)と連携して調査・研究を進めていく協定を締結した。

前列左から東京大学連携研究機構不動産イノベーション研究センター(CREI)柳川センター長、私、内閣府地方創生推進事務局 青木局長。後列左からUR村上本部長、CREI 武藤特任教授、長岡市谷畑中心市街地整備室長、髙見副市長、内閣府黒田審議官、内閣府岡田室次長

 

いま、アメリカのピッツバーグ市やケンブリッジ市など、イノベーションの創出により「まち」を発展させるイノベーション地区が次々に誕生している。「新たな都市モデル」とされ、その数は全世界で70か所に上る。CREIによれば、日本でイノベーション地区として発信・研究されている都市は、今のところ存在しない。

※イノベーション地区
大学・研究機関、インキュベーション施設、ベンチャー企業、事業創発・発展を促進する企業・団体等が効果的に連携・集積している地域であって、物理的にコンパクトで交通の便がよく、ネット環境が整備され、住宅・オフィス・小売店・飲食店等が混在している地区。

 

 

■ なぜ、長岡なのか

 

今回の協定は、地方都市に居心地の良い空間を作り、多様な人材を引き付け、オープンな交流によってイノベーションを生み出だす新しい地域活性化モデルを構築することを目的としている。長岡市が選ばれたのは、米百俵精神の土壌の上に、これまで進めてきた長岡版イノベーションの取り組みと米百俵プレイス ミライエ長岡につながる中心市街地のまちづくりなどが、内閣府とCREIから評価されたからに他ならない。


締結式では、野田内閣府特命担当大臣が「長岡市は、イノベーターたちが集い、交流できるコワーキングスペースの設置など、先駆的な取り組みを行っている。地方都市でイノベーションを生み出す『新しい地域活性化モデル』として、日本の成長戦略の一つの柱となることを期待している」とビデオメッセージを寄せた。

内閣府は、NaDeC BASEナデックベ-スを拠点する4大学1高専と産業界が連携した活動や、首都圏企業にリモートワークで勤める「NAGAOKA WORKERながおかワ-カ-」の取り組みが、まちなかに多様な人を引き付け、イノベーションが生まれる環境を作っていると分析する。

これまで進めてきた市の政策が、国や研究機関から大きな評価を得ていることを大変うれしく思う。

 

 

■ 多様な人材が集まるオープンなまちに

 

今後は、長岡市をモデルとして、デジタル技術の活用や歩きたくなるまちなかの実現など、イノベーションが生まれる都市(まち)の条件について、内閣府とCREIと連携し、継続的に評価・検証していく。長岡をフィールドとして、さまざまな仮説を立て実験を繰り返すことで、市の課題が整理され、確かな目標・ビジョンと実現に向けた動きが生まれるだろう。

 

 

イノベーションを生み、起業創業を実現するために最も必要なのは人材だ。「長岡は何かおもしろいことをやっている」「長岡に行けば何か新しいことができる」と、より多くの多様なイノベーション人材(イノベーター)が集まることが期待できる。しかし、アドバルーンを上げるだけでは全く意味がない──このことを肝に銘じよう。

イノベーションは実現された結果がすべてだ。ハッタリや雰囲気で結果は出ない。私たち日本人は、あれほどの高度経済成長期にいったい何を見逃してきたのか? 現在の衰退の原因があの輝かしい時代にあったことを忘れず、真面目で誠実なイノベーションの実証実験に取り組んでいかなければならない。持続可能な社会の実現は誠実さが担保する。

来年にはいよいよミライエ長岡がオープンを迎える。ミライエ長岡を核として、4大学1高専の学生や教員、起業家、経営者たちと、世界中から集まるクリエイティブ人材との交流やコラボレーションを通して、さまざまなイノベーションが生まれるまちづくりを進めていく。

 

今回の締結は、長岡の中心市街地活性化と長岡版イノベーションの政策によって、長岡の中心市街地を「イノベーション地区」として整備発展させ、長岡市を「イノベーションが生まれるモデル都市」にするための調査研究だ。地方創生というなら、まずイノベーションによって産業を活性化し、働く場を増やしていかなければならない。このことを、長岡の実践例で示していきたい。
来年夏の「米百俵プレイス ミライエ長岡」を一つの節目として、長岡をイノベーションの実証フィールドとして外部にも開放し、オープンな「イノベーション都市・長岡」を実現していきたいと考えている。

 

 


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 長岡市の取り組み発表。いま注目を集めている「仮想山古志プロジェクト」についても説明紹介した。