与板打刃物は、戦国時代から450余年も継承されてきた伝統の技術だ。 匠の手によるかんなのみなどは全国の宮大工に愛用され、日本の 伝統建築には、これが “無くては始まらない” 存在だ。かっての大正時代、200人を超える鍛冶職人が活躍していた与板でも、現在は、その数10数人… 。職人さんの高齢化も進み、後継者の育成が大きな課題となっていた。

そんな状況の中、国の地域おこし協力隊制度長岡市伝統工芸後継者育成事業補助金を利用し、2人の若者が後継者となるべく与板地域で日々奮闘している。

 

 
■ 2人の継承者

祖父が大工だったという島田しまだ拓弥たくやさん(神奈川県相模原市出身 32歳) は、平成29年に地域おこし協力隊員となり、かんな職人の修業を始めた。
昨年6月の任期終了後も修業を続け、今は鉋製造の一部を任されるようになった。先月寺泊で催された研ぎ物体験教室で講師を務める(写真下)など活動の場を広げている。

魚のまち寺泊で〜「研ぎ」の技に関心が高い

昨年10月から修業を始めた似鳥にたどりとおるさん(北海道砂川市出身 31歳) は、長岡の市民団体「ソラヒト日和」と越後与板打刃物組合の有志が立ち上げた「後継者育成プロジェクト」により採用された。

このプロジェクトは、後継指導する職人に、指導に伴う本業の減収分等を、国の補助金とふるさと納税制度を活用したクラウドファンディングで補填するもの。さらに、後継者には前述の長岡市補助金が支給されるため、師匠は付きっきりで後継育成に専念できる。

従来の職人育成は “見て覚える” といった徒弟制度で、一人前になるまで10年から15年を要した。が、専念指導により5年で独り立ちさせる目処が立ったというから、これは特効薬になりそうだ。

似鳥さんと、弟子を指導・見守る親方師匠(水野鉋製作所で)

 

 
■外からの新しい風

島田さん・似鳥さんは、いま、与板地域にくらして修業している。
3年になる島田さんは、一人前になるまで鉋づくりの修練し、将来はもっとさまざまな刃物製作に挑戦したいと語る。私生活では、地元の人から声をかけられることも多く、与板十五夜まつりで神輿を担ぐなど、すっかり地元に馴染んでいるようだ。

似鳥さんには、大学で航空宇宙工学を専攻し、青年海外協力隊員としてタンザニア大学で機械工学を教えるなど多彩な経験がある。
さっそく、越後与板打刃物組合のHPを立ち上げてくれた。先輩の島田さんと力を合わせ「現在は行われなくなった与板打刃物の古式鍛錬のイベントを復活させたい」と意気込んでいる。

2人の親方たちも、「若い人のエネルギーに触れると生活にハリが出る」「新しいアイデアや意見を聞くと自分たちもまだまだ頑張らないといけない」と嬉しそうに話す。

長岡市では、後継者育成に取り組む事業者支援を継続しつつ、「地方分散」の動き──新型ウイルスの影響で人の居住や企業の拠点が大都市から地方都市に移る──にも併せてのり、外から来た若者が地域を盛り上げるような、地域共生社会の実現へと繋げていくことをしたい。

若き職人さんが“鎚打つ音”♪動画もどうぞ (YouTube でも観られます)

<参考データ>
■令和2年度 伝統工芸後継者育成支援事業補助金
対象事業:伝統工芸産業を営む事業者等が、後継者を雇用し、事業継承又は市内での独立に必要な技術等の指導を行う事業
対象業種:次のいずれかに該当する工芸品を製造する市内産業
      ①国が指定した伝統的工芸品
      ②県または市が指定した無形文化財工芸技術に該当する工芸品
      ③県または市が指定した有形文化財工芸品に密接に関連する工芸品
    【対象:長岡仏壇、越後与板打刃物、小国和紙、寺泊曲物、脇野町鋸】

交付条件:後継者は、市内居住の40歳未満の者で、上記事業者の下で技術等の習得に取り組み、将来的に事業承継または市内で独立を目指す者
対象経費:事業者等が後継者に支払う給与
補 助 額:後継者1人当たり月n額15万円(年間180万円)を上限
      ※原則5年間で4~5年目は月額10万円(年間120万円)を上限募集期間:令和2年4月1日(水)から随時募集 ※予算額に達した時点で終了
担当:工業振興課 ☎︎ 0258-39-2222/メール shoko@city.nagaoka.lg.jp


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タイトル画像:
  修行4年目に入った島田さんの職人ぶり。文字通り火花を散らしての作業だ。(中野鉋製作所で)