今月7日(水)、日経地方創生フォーラム(主催:日本経済新聞社) が東京大手町の日経ホールで開催された。

フォーラムのテーマは「誰もが輝く社会づくり、街づくりを目指して」

自治体や政府関係者、識者ら20余名がアフターコロナ後の地域経済の活性化などに関して議論、発信をした。周知のとおり、地方創生は今の日本の大テーマだ。

私も午後の部の基調講演に登壇し、「イノベーション都市・長岡の実現へ」と題し、長岡市が進めているイノベーション政策について、約1,170人の聴衆(会場約170人・オンライン約1,000人)に紹介した。 

今回のブログは、講演で紹介した長岡のイノベーション政策によるまちづくりについてである。

 

日経地方創生フォーラム基調講演 (日経ホール/東京大手町 R6.2.7)

 

 

■ 市役所機能をまちなかへ

 

地方都市における中心市街地の活性化は、解決の決め手のない難問題となってきた。その試行錯誤の歴史は長い……。

長岡も同じ問題に直面してきた。駅前から広がる中心市街地(まちなか)は、昭和30年から40年代、市民の経済活動の中心地として、大いに賑わっていた。ところが、平成に入ると車社会の進展(モータリゼーション)による郊外化が進み、まちなかの大型店舗(デパートなど)が相次いで撤退していった。

大型店舗の撤退後、商業機能の復活が模索されたが、実現することはなかった。これは長岡に限ったことではなく、全国的に見ても成功例は見当たらない。残念ながら「過去の成功体験が問題解決を妨げる」典型的な事例になってしまったといわざるをえない。社会の趨勢(=車社会の到来)を受け入れ、過去の復活を求める発想から脱却することが必要だった。


そうした反省を踏まえ、中心市街地構造改革会議提言を経て、長岡市は「まちなか型公共サービス」による活性化へと政策を転換し、市役所併設のアオーレ長岡がまちなかに完成したのが11年前。つづいて、福祉関連トモシアなどの公共サービス機能の移転が完了。まちなかは、「文化・情報・交流の場」に生まれ変わった。

そして今、長岡の発展を見据えた次なる展開が始動している。人材育成と産業振興、イノベーションの拠点となる「米百俵プレイス ミライエ長岡」の整備から始まった「長岡版イノベーション」の拠点としての中心市街地整備という新しい段階へ──。

こうした動きが進む中で、令和4年3月に、長岡市・内閣府東京大学CREIの3者による日本初の「イノベーション地区」創設に向けた研究連携協定締結へと至った(過去ブログ)。長岡のまちづくりへの新しい発想と具体的な進展が広く認知され、評価につながったものと感じている。

 

 

 

 

■イノベーションが常在する都市(まち)

 

昨年7月にオープンした「米百俵プレイス」西館は、ミライエ長岡(互尊文庫NaDeC BASE)と第四北越銀行が入居している。市が管理する6階のコラボレーションオフィスには6社(満室)、第四北越銀行がオーナーの9階オフィスフロアにも9社が入居。進出企業は、通信、IT、WEBデザイン、技術サービス、販売など業種はさまざまで、ベンチャーやスタートアップ企業もあり、長岡初進出の企業も多い。

5階には4大学1高専と産業界との活動拠点「NaDeC BASEナデックベース」やバイオの拠点ブリッジ・イノベーション・ラボラトリ(BIL)があり、連携や交流を通じて新たな商談や製品開発、産業の創出につながる動きが期待できる。

また、まちなかでもサテライトオフィスの進出が相次ぎ、地方に人材を求める首都圏企業が増えている。首都圏企業にリモートワークで勤めるNAGAOKA WORKER(長岡ワーカー)は今年中には100名を超える見込みだ。

中心市街地への新規企業進出状況
(株)アルプス技研(米百俵プレイス9階オフィスフロア 907号室)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

内閣府は、一昨年の協定締結時に「NaDeC BASEを拠点とした4大学1高専と連携した活動や、長岡ワーカーがまちなかに多様な人を引きつけ、イノベーションが生まれる環境をつくっている」と分析していたが、ミライエの誕生により、さらにその動きが加速している。

 

利用者にビーコン入り名札着用をお願いする

今月から、長岡市は東京大学CREIクレイと連携し、ミライエのイノベーションフロアで、「だれが」「だれと」「どこで」「どのくらいの時間」一緒にいたか、という情報を収集し、リアルな場での人のつながり方を科学的に検証する取り組みをスタートさせた。

利用者にビーコン入りの名札を着用してもらい、利用者のつながり方や交流の中心人物などを探るものだ。

これにより、イノベーションを生むために必要な「場」が、どのような実際の ・・・場所に発生するのかを明らかにするのがねらいだ。寛容かつ居心地のよい空間は多様な人材を引き付け、そこで生まれる交流がイノベーションの原動力になるという考え──オープンマインドが大切──に注目してほしい。(イノベーションを促進する「場」の概念についての参考資料はコチラ)あたらしい技術、あたらしい発想、未来を創造するムーブメントは寛容の中から生まれるのだと実証されれば、世界はもっと平和で、誰もが輝やく社会に向かうのではないだろうか。

※ 下図は昨年 NaDeC BASE での調査を可視化した「つながり」の図

NaDeC BASEでの「つながり」の図(作成:東京大学CREI)

 

長岡は東京から新幹線で90分。豊かな自然が身近にある。ものづくり企業の集積や、4大学1高専も頼もしい存在だ。

こうした強みを活かし、ミライエを核として、国内、世界から集まるさまざまな人材との交流やコラボレーションを通して、新たな価値を創造するイノベーション都市への歩みをさらに進めていく。

 

   関  連  記  事 :  まちづくりとイノベーション都市    集えメイカーズ! 米百俵のまちへ

 タイトル画像 : 日経地方創生フォーラム基調講演資料より