指先を挟むだけで、血液中の酸素濃度を測定できる医療機器──パルスオキシメータ註)──を病院などで見かけたことがあるだろう。 セルフケア のために購入した方もいるかもしれない。

酸素は血液中のヘモグロビンと結合して全身に運ばれる。パルスオキシメータは、酸素飽和度(ヘモグロビンがどの程度酸素と結びついているかを示す数値)を、採血なしで測ることができる。今、新型コロナウイルス感染症の重症化の前兆を把握するために世界中で使われており、需要が急増している。

 

このパルスオキシメータの技術原理の発明者は、長岡市出身の青柳卓雄あおやぎたくおさんだ。

昨年4月に84歳で亡くなられたのだが、長岡の三島地域で育った青柳さんは、日吉小学校・日吉中学校(1960年 三島中に統合)卒業後、長岡高校から当時、市内学校町にあった新潟大学工学部で学び、㈱島津製作所に入社。1971年に日本光電工業㈱へ移り、医療機器の開発研究を手がけた。東京大学で博士号も取得している。


当時、手術中の患者が低酸素状態を医療者が把握できず、命を落とす医療事故がたびたび起こっていた。酸素濃度を持続的・安定的に測定することが不可能だったためだ。
青柳さんは血液に光を当て、脈拍を利用して動脈血の酸素飽和度を測定する原理を発見。採血もせずに、刻々と変化する酸素状態を簡単に測れる技術は、革命的だった(1974年特許取得)。手術中の安全な麻酔管理が確実にできるようになったのだ。

その後、小型化が進み、現在のような指先で測定する小型パルスオキシメータが開発されると、またたくまに世界中に普及していった。

 

青柳さんは、2002年に紫綬褒章を受章。2015年には、米国電気電子学会が医療分野の技術革新者に贈る賞(IEEEアイトリプルイー Medalメダル for Innovations in Healthcare Technology)を日本人で初めて受賞した。青柳さんの功績は日本光電のホームページで詳しく紹介されている。

米国電気電子学会
IEEE(アイ・トリプル・イー:Institute of Electrical and Electronics Engineering)
電気・電子・情報関連分野における最も権威がある世界最大の技術系の学術団体。会員数は43万人。

 

 画像クリックで拡大します

 


晩年まで研究を続けた青柳さんは、若い研究者の育成にも力を入れていたという。次の世代を育て上げるということは、彼らが自分を超えることを奨励することだ。米百俵のスピリッツだ。

あらためて青柳さんの功績に深く敬意を表する。とともに、思いをしっかりと受け継いでいきたい。

 

大きな変化に直面している今こそ、新しい世界、新しい時代に向かって果敢にチャレンジ──特に若者が──できるよう、長岡市はこれからも人材育成に力強く取り組んでいく。

 




註)パルスオキシメータ:
血中の酸素飽和度(SpO2)を指先で測定する医療機器。
波長の異なる2種類の光(赤色光・赤外光)を指に当て、通過する光の量で酸素飽和度を測る。拍動(パルスpulse=動きが検知できる)を伴うことで動脈血の情報であると同定できる。この原理を利用して酸素(オキシoxi)を全身に送る動脈血の酸素飽和度を計測する。
*動脈(動的)・静脈(静的)・間質組織(静的)では酸素飽和度が異なる。
麻酔手術の安全性を飛躍的に高めたほか、内科、呼吸器科など世界中の医療現場で患者の命を救っている。酸素飽和度が新型コロナウイルス感染症の重症化の目安となることから、改めて注目されている。なお、体温計や血圧計のように数値を簡単に解釈できるものではなく、測定値の判断について、医療関係者の指導を仰ぐことを推奨している。