なぜ近年になって、日本中で鳥獣被害対策が叫ばれるようになったのか。
色々な原因が考えられるが、 最大の要因は、中山間地域の人口減少だろう 。里山が十分に管理されなくなったことで、人と動物の生息エリアを隔てる緩衝帯がなくなり、動物が里(集落)にどんどん近づいてくるようになった。
過疎化の進む日本において、人間の領域が縮小し、動物の領域が拡大するのは、当然の成り行きともいえる。だが、人命にかかわる事態は未然に防がねばならない。そして、農業や生活への影響を最小限にとどめることも、人間社会の安心・安全のためには必要だ。
長岡市は、令和2年に鳥獣被害対策室を設置。翌年にはこれを鳥獣被害対策課として再編し、被害防除・環境整備・捕獲の3本柱で鳥獣対策を進めることに。不要果樹等の伐採支援や人と獣のエリアを隔てる緩衝帯の整備支援、電気柵購入補助、捕獲の担い手確保などに力を入れてきた(過去のブログ参照)。
今回は、市の鳥獣被害対策、その最近の成果について紹介しよう。
■見えてきた成果
鳥獣の捕獲活動を行う鳥獣被害対策実施隊は、今年度214人と過去最多になった。
〇 隊員数の推移
年度 | 令和1 | 令和2 | 令和3 | 令和4 | 令和5 | 令和6 |
隊員数 | 160人 | 155人 | 165人 | 183人 | 196人 | 214人 |
今年度の捕獲数は下表のとおり。クマは昨年度よりも下回るものの、サルとイノシシは、過去3年(鳥獣被害対策課設置以降)で最多の捕獲数。特にイノシシは多く、わな捕獲免許を持つ人が大勢新規で加入してくれたことで、出没の増加に対応することができた。
これから冬季もサルのわな捕獲を継続することや、イノシシの巻狩りを控えていることから、さらなる上積みを期待している。
〇 捕獲頭数の推移
令和1 | 令和2 | 令和3 | 令和4 | 令和5 | 令和6 | |
イノシシ | 18 頭 | 61 頭 | 118 頭 | 109 頭 | 178 頭 | 273 頭 |
サル | 27 頭 | 58 頭 | 48 頭 | 65 頭 | 79 頭 | 80 頭 |
クマ | 18 頭 | 15 頭 | 3 頭 | 7 頭 | 24 頭 | 8 頭 |
合計 | 63 頭 | 134 頭 | 169 頭 | 181 頭 | 281 頭 | 361 頭 |
捕獲数が増加する一方で、鳥獣による農作物の被害額は令和2年度をピークに年々減少している。
これまで防除・環境整備・捕獲という3本柱による総合的な鳥獣被害対策が実を結んできたものと考えている。
〇 農作物被害額の推移(千円)
令和1 | 令和2 | 令和3 | 令和4 | 令和5 | 前年比 | 被害地域 | |
スズメ | 26 | 248 | — | 193 | — | -193 | 越路/川口 |
カラス | 490 | 130 | 12 | 158 | 76 | -82 | 長岡/栃尾 |
カモ | 10,212 | 9,414 | 7,813 | 7,891 | 7,259 | -632 | 中之島 |
サギ | 198 | 211 | 180 | — | — | — | 長岡/中之島 |
ほか鳥類 | — | 18 | — | — | — | — | 全域 |
イノシシ | 10,594 | 25,485 | 17,639 | 19,178 | 17,305 | -1,873 | 全域 |
サル | 1,104 | 3,109 | 3,066 | 1,775 | 1,314 | -461 | 栃尾 |
シカ | — | — | 606 | — | — | — | 長岡/小国 |
タヌキ | 35 | 408 | — | 57 | 304 | +247 | 小国/寺泊 |
ハクビシン | — | 419 | 168 | 125 | 37 | -88 | 寺泊/栃尾 |
ほか獣類 | 153 | 12 | — | — | 266 | +266 | 全域 |
合計 | 22,812 | 39,454 | 29,484 | 29,377 | 26,561 | -2,816 |
※被害額については、市が毎年、農家組合やNOSAI等の協力を得て調査を実施している。
※最も被害額が多い鳥獣はイノシシ(主に水稲被害)で、令和5年度においては全体の約65%。次いでカモ(れんこん、約27%)、サル(野菜・豆類・いも類等、約5%)で、この3鳥獣で全体の9割以上を占める。
■クマ対策
新潟県内でのクマの分布域は、この10年間で約1.5倍に拡大しているという(参考:6ページ目)。
そんな状況もあってか、今年度の長岡でのクマ出没件数は、128件(11月11日現在)と、昨年度の同時期に比べ15件多い。ただし、今年は山奥のドングリが豊作のようで、深刻な被害はまだ出ていない。
わなの設置で8頭を捕獲(上の表のとおり)。また、不要果樹等の伐採に係る経費の補助を5万円から10万円に拡充し、30件の申請(伐採数196本、申請額計306万1千円)、緩衝帯の整備に係る経費の補助は、15件の申請(面積4.7ha、申請額計218万5千円)となっている。
クマ出没が懸念される地区に対して「地域のセルフチェックシート」を配布して、クマに遭わない、寄せ付けないための行動・環境を確認してもらい、地域ぐるみの被害予防対策の促進を図っている。
すでに県内では6件の人身被害が発生(阿賀町、新発田市、津南町、妙高市、十日町市)しており、油断はできない。県内で10月6日から「クマ出没警戒注意報」を「クマ出没警戒警報」に引き上げ、11月30日までを「クマ出没警戒強化期間」として、注意喚起を促しているところだ。
また市では、クマの出没ごとに、ながおかDメールプラスや市公式LINE・防災X(旧Twitter)で情報を発信。出没地区に対してはその都度、情報提供と注意喚起を実施し、小中学校が近い目撃事案については、学校にも情報提供している。今後もクマの冬眠シーズンが始まる12月頃まで警戒を緩めず対応していく。
■サル対策
栃尾地域と山古志地域の一部に生息するサルは、4つの群れを形成し、総数約200頭と推定される。これらの群れはたびたび集落にやってきて畑の農作物を食い荒らし、地域住民の生活に大きな影響を及ぼしている。
市は今年、61箇所にわなを設置し、80頭(11月11日現在)を捕獲。農作物がなくなりエサも少なくなる冬季も、わなを継続設置していく予定だ。
電気柵購入の補助(上限:個人5万円 団体20万円)については、88件・498万4千円の申請があった。導入補助と併せて、5名の「電気柵訪問点検員」が、栃尾地域95箇所の電気柵を点検してまわり、不具合の修正と効果を高めるための意識づけを図っている。
また、サルの位置情報を8月1日から栃尾地域と山古志地域の種苧原地区の住民に公開。成体のメスザルに装着したGPS首輪によって位置情報を把握し、サルの行動経路や分布がPCやスマートフォンで確認できるようになった。今後、わな設置箇所の選定や、追い払い・電気柵設置などの被害防止策に活用していく。
■イノシシ対策
今年度に入ってから、273頭のイノシシを捕獲。すでに昨年度の捕獲総数178頭を上回っており、長岡地域の川西地区(大積~関原)、旧三島郡地域や小国地域を中心に捕獲している。
イノシシの県内での生息数は増加傾向にあり、令和4年度の推定生息数は47,000頭。これは、令和元年度の4倍以上の数だ。
そこで市は捕獲活動の強化につながる担い手確保のため、狩猟免許の取得費用に対する補助を実施(銃免許:最大5万4千円、わな免許:最大1万円)。加えて、鳥獣被害対策実施隊が購入するイノシシ捕獲わなに対して補助(くくりわな:最大7万2千円、箱わな:最大10万5千円)も行っている。
今後も、鳥獣被害対策実施隊とさらなる連携を図りながら、被害をもたらす野生動物を集落に寄せ付けないための対策を強化していく。
自然は変化に富み流動的だ。生態系に多大な影響を与えている人間として、変化に応じて適切な影響力の行使して自然との折り合いをつけていかなければならない。これからも、試行錯誤を重ねながら野生動物との共生をめざしていきたいものだ。みなさんのご理解とご協力に感謝します!
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タイトル画像 :
令和6年5月20日 長岡市鳥獣被害対策協議会が実施した箱わな捕獲研修会(会場:あぐらって長岡)