レッツ! デザイン・シンキング

 

市長就任以来、「デザイン思考デザインシンキングを長岡の中に取り入れたい」と考えてきた。 

 

デザイン思とは、デザイナーが作品を創るプロセスを応用し、問題の発見やその解決策(新しい商品やサービス、ソリューション)を生み出す手法だ。

始点は、ユーザー(顧客カスタマー使う人ユーザー依頼人クライアント)の目線に立つこと。

ユーザーへの  共感 が、ユーザーが抱える問題や欲求を明確化し、ひいては潜在的な市場の課題や需要の掘り起こしにつながる。「ユーザー(人間)中心主義」がデザイン思考の原則だ。

 


 

ユーザー(=対象者)への 共感 を土台に、目標(=  問題定義 )が明確になったら、解決策の検討を始める。チームのメンバーは、それぞれの専門性を駆使してアイディアを出し( 創造 ideate )、 プロトタイプ をつくって試行( テスト )する。このプロセスを素早く繰り返して改良を加え完成させてゆく。 プロトタイプ原型げんけい、もとがた

実際、デザイン思考から、多くのイノベーションが生まれている。

この手法は、もともとは、世界的なIT企業が集積するシリコンバレー(米国)で、商品開発や経営に取り入れたことから話題となり、その後、世界中に広まったといわれている。個人的能力や「勘」に頼るのではなく、そのプロセスをだれもが学べて使える手法(メソッド)としているのが大きな特徴だ。


また、デザイン思考は、身近な課題解決に応用できる思考パターンであるため、活用できる場面はプロダクト開発のみならず、身近な人の悩み相談や恋愛などあらゆる場面の課題解決に活用できる考え方でもある。ひと言でいえば、デサイン思考を学ぶことで、子どもたちをはじめだれもが、「ものごとの本質に至る思考方法」を会得できるのだ。



■デザイン思考を長岡へ
スタンフォード大構内(2017年8月 視察)


デザイン思考を世界に広めるきっかけをつくったのが、スタンフォード大学 d.schoolだ。

平成29(2017)年8月、長岡造形大学の和田裕学長(当時)とともに、シリコンバレーを視察し、同校がデザイン思考をメソッドにして普及を試みていることを知った。

この視察を一つの契機に、平成30(2018)年度に長岡造形大学の大学院に「イノベーションデザイン領域」が創設され、長岡でデザイン思考を本格的に研究し、学ぶことのできる拠点がスタートした。今では、同大学の「基礎ゼミ(1年次に履修する)」にも取り入れ、造形大生はみなデザイン思考の基礎を学んでいる。さらに、学内のみならず、地元企業を対象としたワークショップや研修など開催するなど、学外へデザイン思考の輪を広げる役割を担っている。

早く失敗せよ、もっと失敗せよ〜シリコンバレーのキャッチフレーズ

そして今年3月、市内4大学1高専で単位互換協定が結ばれた。今回の協定で、各校が、技術・デザイン・経済経営・看護の専門性を活かしながら連携し、学生たちは他校の講義を受講でき、単位として認められるようになった。デザイン思考についても、造形大生だけでなく他の学校の学生も学べるようになった。これは長岡ならではの特色(強み)になるだろう。これからの大きな可能性に期待したい。


※4大学1高専:長岡技術科学大学長岡造形大学長岡大学長岡崇徳大学長岡高専

■大学の先生もびっくり!小学生×デザイン思考


今年度、長岡造形大学と連携し、「米百俵デジタルコンテスト
の一環として、阪之上小学校・上組小学校・新潟大学附属長岡小学校の3校で、デザイン思考の特別授業を実施した。

「相手の遊びがもっと楽しくなるひみつの道具」をテーマに、子どもたちはお互いのインタビューを通して、自分以外の人の考えや気持ちを探り、相手のためにアイデアを考えることを実践した。

 

デザイン思考の特別授業(阪之上小学校4年生)

 

今回の特別授業を監修した造形大の板垣順平先生は、こう話す。

「生徒から、『良いアイデアを考えるためには相手にたくさん質問した方が良い』という意見が出たのは衝撃でしたね。小学生でそこまで気づけるのはすごい」

思考が柔軟な小学生が「デザイン思考」を学べば、次元の違う未来につながると感ずる。今後はもっと多くの子どもたちに広げていきたい。

 

※米百俵デジタルコンテスト:人材育成や未来への投資を行う「新しい米百俵」の取り組みの一環。子どもの遊び・学び、暮らしを豊かにするデジタルプロダクトのアイデアを若者に募集し、若者に挑戦と学びの場を提供するもの。



■行政にもデザイン思考を導入


長岡の市政においても、デザイン思考は「長岡版イノベーション」を推進するための、基本的な心構え、ものの見方、考え方として位置づけている。
市政を担う職員には、デザイン思考を自分の血肉としてほしいと考え、平成30年度から研修を開始した。だれもが一度は経験したことがある失敗体験という身近な「問題」を手掛かりに、デザイン思考の①共感②問題定義③創造④プロトタイプ⑤テスト(前出の図)を体験的に学ぶ。昨年度までの受講者(部長級~主査級)は402人に上る。

また、市では職員採用試験案内にも長岡市が求める人物像(人材)として、<失敗を恐れずに「デザイン思考」で課題解決できる人>と明記している。

 

5月に行われたデザイン思考を取り入れた新人研修 。長岡造形大生も一緒にデザイン思考について学んだ。

 

今年度からは、新人研修にもデザイン思考を取り入れた。造形大生も数名交えたこの研修は、非常に活発に意見が交わされ、大変有意義だったと聞いている。主な意見・感想を紹介しよう。

・「モノありき」の視点では問題解決に至らないことが、市民のニーズや行動原理に着目して 問題解決に取り組むと、全く異なる解決策が生まれることが分かった。
・今まで考えてこなかった、気づいていなかった視点で物事を考えることは、非常に良い経験になった。
・他の人の意見などから多角的に物事を捉えることができる。問題解決の思考プロセスは業務に活かせると思う。

 

新型コロナウイルスの影響で社会が大きく変化している中、行政側の一方的な思い込みや押しつけでなく、問題の本質を捉え、市民(ユーザー)の視点に立った解決策を生み出すデザイン思考の手法は必要不可欠だ。見逃しがちな市民の本質的ニーズを発見して、今までにない柔軟な政策を生み出す(イノベーションを起こす)ことも期待できる。ひろくデザイン思考を浸透させていきたい。




コロナが終息しても、元の社会には戻らないだろう。変化はさらに加速する。すでに、コロナ後の新しい社会が始まっている考えるべきだと思う。
今こそ、これまでの価値や権威を再点検し、新たな価値観や技術が生み出す社会像に照らして、どのような新しい長岡をつくっていくかが課題だと考える。


そのための視点と手段が「長岡版イノベーション」であり、デザイン思考はその中核に位置付けているものだ。今後も、長岡の起業創業、産業活動、長岡市政、そして子どもたちの学びとして、積極的に普及・活用に取り組んでいきたい。

持続可能な循環社会を実現するためには、地球の立場に立つ必要があると思う。地球環境にとってわれわれは何をするべきなのかを考える時、地球をクライアントとしたデザイン思考が必要ではないだろうか。

 

 

 


   関  連  記  事: 長岡発ロボットイノベーション 長岡発 学生ベンチャー

 タイトル画像:
デザイン思考の特別授業(阪之上小4年生)
インタビューを繰り返しながら、相手の考え方や気持ちをつかみ、相手が求めるものを思い浮かべ、相手の遊びがもっと楽しくなるアイデアを考える授業